バイクに乗っているときに、前が詰まっているとついつい「すり抜け」したくなりますよね。
すり抜けは、渋滞中の道路なら時間短縮になりますし、便利です。バイクならではですよね。しかし、場合によって「すり抜け行為」は交通違反となり、最悪は事故を引き起こしてしまいます。
すり抜けについて、どのようなケースで違反行為とみなされ、どのような事故が考えられるのか。今回の記事では、これらの点について詳しく解説していきます。
すり抜け行為に対して、改めて考え直すきっかけとなれば幸いです。
バイクのすり抜けは問題ないのか|交通違反となる行為とその危険性について解説する
バイクのすり抜けは、交通法的にはグレーゾーン
実はバイクのすり抜けに関して、明確に禁止している法律がありません。
そのため、実際には「グレーゾーン」となっているのが現状です。まずこれを覚えておいてください。
道路交通法上「すり抜け」は「追い越し」である
自動車の間を二輪車が抜かしていく行為を、一般的には「すり抜け」と呼んでいますが、道路交通法では「追い越し」に該当します。
その追い越しに関して、道路交通法第28条では以下のように定義されています。
二十一 追越し 車両が他の車両等に追い付いた場合において、その進路を変えてその追い付いた車両等の側方を通過し、かつ、当該車両等の前方に出ることをいう。
(追越しの方法)
第二十八条 車両は、他の車両を追い越そうとするときは、その追い越されようとする車両(以下この節において「前車」という。)の右側を通行しなければならない。
2 車両は、他の車両を追い越そうとする場合において、前車が第二十五条第二項又は第三十四条第二項若しくは第四項の規定により道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、前項の規定にかかわらず、その左側を通行しなければならない。
(中略)
4 前三項の場合においては、追越しをしようとする車両(次条において「後車」という。)は、反対の方向又は後方からの交通及び前車又は路面電車の前方の交通にも十分に注意し、かつ、前車又は路面電車の速度及び進路並びに道路の状況に応じて、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。
(罰則 第百十九条第一項第二号の二)
つまり、
- 追い越しとは、前の車のそばを通過して前に出ること
- 前の車を抜くときは、基本的には右側を走行しましょう
- もしも前の車が、道路の中央や右側に寄っていたら、その左側を通りましょう
- 車を追い抜くときは、安全な速度と方法を守りましょうね
と定義されているわけです。
ですので、以下のような追い越し(すり抜け)は、適法(違反ではない)と判断される場合がほとんどです。
・前の車を抜かそうとして、同一車線内で右側を通ってすり抜ける
→「車両の右側を通っている」ことになるので、道路交通法的には◯
・右折をしようとして右に寄っている車を、左からすり抜ける
→「道路の中央又は右側端によって」いるときは「左側を通行しなければならない」なので、道路交通法的には◯
追い越しと追い抜きについて
ところで、「追い越し」に似ているものに「追い抜き」ってものもあります。
ちょっと紛らわしいですよね。追い越しと追い抜き。
「追い抜き」については道路交通法で定義されていませんが、一応の意味としては次の通りに理解されていると思います。
追い抜き … 前方を走っている車を、進路変更しないで前に出る行為のこと
「前を走っている車を抜く」のは共通していますが、違いは「進路変更をするかどうか」です。
- 進路変更を伴って前に出る → 追い越し
- 進路変更せずに前にでる → 追い抜き
ここで問題となるのが、「追い越しは駄目だけど追い抜きはOK」な場所がある、ということです。
たとえば、「追い越し禁止」の看板がある車線を、車線左寄りでバイクで走っていたとします。前方を走る車両(車線中央を走っている)がノロノロと走っていたので、左側からそのまま車を抜かしたとします。
この場合、違反にはなりません。なぜなら、進路変更をしておらずにそのまま抜かしたのは「追い抜き」であり、「追い越し」に当たらないからです。
……なんともややこしいですよね。このややこしさが、すり抜け自体が「グレーゾーン」となっている一因でもあります。
すり抜けが違反と判断されるケース6つ
そんなグレーゾーンでもあり、違反に当たるのか判断がしづらいのがバイクの「すり抜け」行為。
ですが、以下のような行為をした場合、高確率で違反となりますので注意しましょう!
- 右折しようとした車の右側をすり抜け
- 黄色い線を跨いですり抜け
- 「追い越し・追い抜きともに禁止」されている箇所ですり抜け
- ノロノロ渋滞している車の間を縫うようにすり抜け(割り込み)
- 赤信号で止まっている車の前を、停止線を超えて停止
- 路側帯を使ってすり抜け(高速道路上でも)
以下、詳しく解説します。
右折しようとした車の右側をすり抜け
これは前述でご紹介した、道路交通法の「道路の中央又は右側端に寄つて通行しているときは、前項の規定にかかわらず、その左側を通行しなければならない。」に違反しています。
違反ではなくとも、右に曲がろうとした車の右側を行くのは、接触する可能性が高く、とても危険ですよね。絶対やめましょう。
黄色い線を跨いですり抜け
黄色い線は、「車線変更禁止」を意味します。
それを跨いでしまえば、車線変更をしたとみなされ、違反となります。
「追い越し・追い抜きともに禁止」されている箇所ですり抜け
追い越し・追い抜きともに禁止とされている場所があります。たとえば「横断歩道・自転車横断帯などの手前30m以内の道路」です。
第三十八条
3 車両等は、横断歩道等及びその手前の側端から前に三十メートル以内の道路の部分においては、第三十条第三号の規定に該当する場合のほか、その前方を進行している他の車両等(軽車両を除く。)の側方を通過してその前方に出てはならない。
(罰則 第百十九条第一項第二号、同条第二項)
横断歩道を見つけたら、すり抜けはしないことをおすすめします。
ノロノロ渋滞している車の間を縫うようにすり抜け(割り込み)
渋滞が長く続いている場面では、車と車の間や、車線を縫うようにしてすり抜けるバイクがいますよね(筆者個人は勝手に「ゴキブリ走り」と呼んでいますが……)。
渋滞で徐行または停止している車両の間をすり抜けながら走るのは、「割り込み」違反と判断されることがあります。
第三十二条 車両は、法令の規定若しくは警察官の命令により、又は危険を防止するため、停止し、若しくは停止しようとして徐行している車両等又はこれらに続いて停止し、若しくは徐行している車両等に追いついたときは、その前方にある車両等の側方を通過して当該車両等の前方に割り込み、又はその前方を横切つてはならない。
(罰則 第百二十条第一項第二号)
たとえ完全に停止していたとしても、車両前方を通過したら「割り込み」と判断されることがあるので、注意しましょう。
また、2車線道路などで左右にうねうねとすり抜けるバイク(自動車も)がいますが、それは道路交通法の「進路の変更の禁止」に触れる可能性が高いです。事故に繋がる可能性も高いので、やめましょう。
第二十六条の二 車両は、みだりにその進路を変更してはならない。
赤信号で止まっている車の前を、停止線を超えて停止
よく、信号待ちの際に、停止線を超えて前方に停止するバイクがいますよね。
これは「信号無視」に当たる可能性が高いです。
道路交通法第四条
4 信号機の表示する信号の意味その他信号機について必要な事項は、政令で定める。
道路交通法施行令 第二条「赤色の灯火」
二 車両等は、停止位置を越えて進行してはならないこと。
停止位置とは「停止線」を表しますから、停止線を超えて走行すれば「信号無視」です。
路側帯を使ってすり抜け(高速道路も)
バイクのすり抜けで道路の左側を通るとき、「路側帯」にあたる道路を走行すると、違反になります。
路側帯とは、道路交通法にて以下のように定義されています。
第二条 三の四 路側帯 歩行者の通行の用に供し、又は車道の効用を保つため、歩道の設けられていない道路又は道路の歩道の設けられていない側の路端寄りに設けられた帯状の道路の部分で、道路標示によつて区画されたものをいう。
つまり、「歩道がない道路の、車道外側にある線より外側のゾーン」のことを指します。この路側帯を通行することは、道路交通法で禁止されています。
※わかりやすい参考HP:道路交通法が一部改正されました(平成25年12月1日施行)/茨木市
第十七条 車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するとき、又は第四十七条第三項若しくは第四十八条の規定により歩道等で停車し、若しくは駐車するため必要な限度において歩道等を通行するときは、この限りでない。
ちなみに似た道路として「路肩」がありますが、こちらは「歩道がある道路の、車道外側にある線より外側のゾーン」を指します。こちらは道路交通法で明確に定義されておらず、走行禁止などについても明言されていません。
つまり、
- 歩道が「ある」車道における外線の外側 → 路肩
- 歩道が「ない」車道における外線の外側 → 路側帯 → 走行すると違反!
となります。
この違反が最も多いのは、高速道路です。高速道路の左側部分にスペースがありますが、その道路は歩道がないために「路側帯」と分類できるからです。渋滞が長いからといって左側を通ってしまえば、高確率で捕まりますよ!
一方で歩道がある道路は、「路肩」となるために正確には違反となりません…… が、自転車や人が急に飛び出てくる可能性は高いです。人身事故にも繋がりますから、あまりおすすめはしません。
捕まった場合の違反点数・罰金
では、上記で紹介した違反をして捕まった場合、どれくらいの違反点・罰金となるのでしょうか?
以下、解説していきます。
※参考:交通違反の点数・反則金等の一覧表(その1) – 埼玉県警察
違反の種類 | 追越し違反 |
---|---|
違反点数 | 2点 |
反則金 | 7,000円 |
該当行為 | 1 右折しようとした車の右側をすり抜け 2 黄色い線を跨いですり抜け 3 「追い越し・追い抜きともに禁止」されている箇所でのすり抜け |
違反の種類 | 車線変更禁止違反 |
---|---|
違反点数 | 1点 |
反則金 | 6,000円 |
該当行為 | 2 黄色い線を跨いですり抜け 4 ノロノロ渋滞している車の間を縫うようにすり抜け(割り込み) |
違反の種類 | 割り込み等 |
---|---|
違反点数 | 1点 |
反則金 | 6,000円 |
該当行為 | 4 ノロノロ渋滞している車の間を縫うようにすり抜け(割り込み) |
違反の種類 | 信号無視(赤色等) |
---|---|
違反点数 | 2点 |
反則金 | 7,000円 |
該当行為 | 5 赤信号で止まっている車の前を、停止線を超えて停止 |
違反の種類 | 通行区分違反 |
---|---|
違反点数 | 2点 |
反則金 | 6,000円 |
該当行為 | 6 路側帯を使ってすり抜け(高速道路も) |
ほかにも、場合によっては以下の違反に当てはまると判断されるケースもあります。
- 「安全運転義務違反(違反点数2点、反則金7,000円)」
- 「車間距離不保持(一般道)(違反点数1点、反則金6,000円)」
バイクのすり抜けによる危険性
バイクは自動車と比較して車格が小さいですから、すり抜けが容易にできます。
「すり抜けすれば時間が短縮されるし、ラッキー!」と思うかもしれません。しかし、もしもすり抜けで捕まったり、事故を起こせば、その分時間がロスされることをお忘れなく!
JAFは公式HPにて、バイクのすり抜けによる危険性を指摘しています。
(参考:すり抜け走行の危険性とは?|バイク|JAFクルマ何でも質問箱)
- バイクのミラーやハンドルなどが、自動車に接触して破損させる可能性がある
- 上記の接触が原因で転倒し、事故になる恐れがある
それ以外にも、以下のような事故も考えられます。
- 交差点で車の左側をすり抜けたときに、反対車線からきた右折車と出会い頭事故
- 自動車の横をすり抜けるとき、自動車側が気づかずに幅寄せなどして、接触する事故
このように、すり抜けは事故を起こす可能性が高い行為です。とくにバイクは事故したときのリスクが高いですから、自分の命を守るためにも、すり抜けは控えた方が良いでしょう。
まとめ
すり抜けは、道路交通法では明確に禁止している文言がありません。ですから、すり抜けをしたとしても、必ずしも捕まるとは限りません。
しかし、「追い越し禁止区間での追い越し」「停止線を超えて停止(信号無視)」「路側帯を走行」などは、違反行為として捕まる可能性が非常に高いです。
違反に当たらないすり抜けをしたとしても、事故に遭うリスクが高まります。とくにバイクは運転手が剥き出しですから、そのダメージは大きいものですよね。
そのほかにも、バイクの部品が自動車に接触してしまったり、運転手同士のトラブルに発展する可能性もあります。
バイクでのすり抜けは極力控え、安全な運転を心がけましょう!
引用HP元